能登・輪島市(石川県) ‐ 『“ざっくばらん”な田舎ライフスタイル体験』の参加者の多くは東京から来る人たちばかりで、今回の参加者も東京の会社員でブロガーのKyahさん(本名 田中秀宗さん)と、奥さんのまりえちゃん。(前回の話しはこちら)
田舎バックパッカーの拠点は穴水町岩車だが、田舎体験スポットの全てが町内というわけではない。
ときには料理屋、観光スポット、ときにはドロドロになる酪農体験、セレブ感あり田舎らしい“洋上パーティー”など、“旅”して体感することやスポットは多岐にわたる内容。体験の舞台は、奥能登エリアが中心。
外から来る人たちは、一市町村にこだわらず、やっぱり、奥能登全体を体験したい。
昼や夜は、能登の新鮮な食材をふんだんに使ったあらゆる美味しいものを食べて、能登を楽しむ。
珠洲の民宿 食堂「むろや」での昼食、ドローンで見附島を空撮後、翌日の“洋上パーティー”の食材やお酒を「どんたく」で買い出ししたぼくら。
今夜は、“高級”で手を出せていなかったフランス料理『ラトリエ・ドゥ・ノト』に挑む…
田舎体験初スポットでもある。
さて、フランス料理では、事前に食べたいコースを伝える必要がある。
今回、ぼくのみ5250円台のコースにする予定だった。
が…なんと!3人だと全員統一したコースメニューにしなければならないのだ!
「あぁ、そうですかぁ…(今夜は高くつきそうだなぁ)」と、若干“残念感”ありの8400円のコースで妥協。
しかし、『現場』へ行くと…その“残念感”は、「あぁ、行って良かったねぇ。8400円のコースにしといて、よかったねぇ〜」と、自身にしみじみと熱く…語りかけたくなるほど、その“残念”な気持ちは、ポジティブな感情へと好転するのだった。
冒頭から伝えておこう。
ここ輪島のフレンチ『ラトリエ・ドゥ・ノト』は能登の新鮮な食材を活用している。
能登への旅人はもちろんのこと、田舎…能登に住む人だからこそ、行くべきスポットだと確信した。
その理由は、これから語る内容から感じとってほしい。
田舎各地にこんなに美味なスポットを作ったら、田舎ってかな~り、元気になるんじゃない!?って心から思える料理だった。
能登で“イナ旅”初フレンチへ
そんなこんなで、今夜、田舎バックパッカー初のフランス料理店『ラトリエ・ドゥ・ノト』へ。記念すべき夕食。
Kyahさん夫婦によると、東京在住のグルメ仲間も絶賛。「能登の料理店と言えばここでしょ!」と、薦められるフランス料理店のようだ。
Kyahさんのような友だちが能登へ来ないと、高級フランス料理へは滅多に行くことはないので、ぼくにとっても本当に良い機会だった。
フランス料理「ラトリエ・ドゥ・ノト」の建物は、輪島塗の塗師屋(ぬしや)の客室を改装したつくり。奥には塗師屋の工房・蔵があり、そこが塗師屋の作業現場となっているそうだ。
輪島に詳しい人、輪島塗の塗師屋へ行ったことがある人なら、外観を見れば、その点に気づくことだろう。
外観は質素な塗師屋造りの家に暖かい明るさを灯した雰囲気。
中に入ると、外観のみかけよりも、広々しているスペース感、贅沢で広い日本的な中庭、塗師屋感を残し、輪島の“和”と、若干の“洋”を取り込んだ空間づくりとなっている。
この中庭を通して、他のテーブルの賑やかさも見え、中庭が中心となった温かい“集いの場”となっている雰囲気がある。
ぼくは過去、アメリカ・サンフランシスコや、東京・恵比寿のウェスティンホテルへ行く途中にあるフランス料理店にしか行ったことがないので、フランス料理について、そう多く語ることはできないが、都会にあるような高級感溢れるレストランとはまた空間の“味”が違う。
シェフやスタッフの人たちのフレンドリー色からも、みんなと仲良くなれそうで、親しみやすいフランス料理店という感じである。
それもそのはず。地元で食材を提供している漁師のおじちゃんは半ズボンなど、“ざっくばらん”な格好でやってくるそうだ。ドレスコードはない。
県外からだと、愛知県名古屋から来る人たちが多いとのことだった。
自身、ハーフパンツ、ティーシャツ、サンダルで行こうか迷い、最終的に襟付きシャツ、長ズボン、サンダルを着て行ったわけだが、シェフやスタッフの人たちの話しを聞いていると、普段着の“ざっくばらん”な格好で良かったようだ。って…それでも普段の服装と変わっていないじゃんって思われそうだが…
その“ざっくばらん”さも、ここ「ラトリエ・ドゥ・ノト」の大きな特長の一つと感じ、この『“ざっくばらん”な田舎ライフスタイル体験』にも合致していると勝手に思い込んでいる。
普段、ぼくが行くところよりも、「高級という点はさておき…」とも言いたいところだが、「ラトリエ・ドゥ・ノト」を味わってしまうと、「高級だから行きたくない!」という考え方は無くなってしまう。
建物のベースとなっている「塗師屋」は、輪島塗の製造から販売までを手掛ける総合プロデューサー的な立場。
輪島塗は、木を器の形に彫る木地師(きじし)、器に漆を塗る塗師(ぬりし)、漆を塗ったものに金などで装飾する沈金師(ちんきんし)、絵や模様などのデザインを描き装飾する蒔絵師(まきえし)などの数多くの分業体制で成り立ち、造られていて、この分業体制をまとめて、「親方」のポジションにいるのが「塗師屋」だ。
あくまでも、ぼくが見たことがある塗師屋の印象だが、塗師屋らしい家には、細かい角材の格子の引き戸が入口や内部にあり、その隙間から入り込む光が柔らかく感じる。
そんな伝統的な塗師屋のスペースを改築した料理店が「ラトリエ・ドゥ・ノト」なのだ。
塗師屋の多くは、拭き漆仕上げだが…料理店として改装後の「ラトリエ・ドゥ・ノト」は、どうだったのだろうか…その点は聞かなかった。
オーナー兼シェフの池端隼也(いけはた としや)さんは輪島市二勢町(ふたせ)出身。1979年生まれ。
フランス料理を始めた最大の理由は、高校3年生ころ「人を喜ばせる仕事をしたい」という背景から。
その当時、「フランス料理は正直食べたことが無かったので逆に興味をもった」そうだ。
若いときはみんな、「やってみたい!」だけの気持ち、シンプルな背景・理由・情熱で突き進む。
そんな“若い夢”からの始まりがまたいい。情熱がなくては、人生面白くないし、突き進めない。
そんなシンプルな情熱をもち、池端隼也さんは輪島高校卒業後、県外へと“旅”立ち、18歳から25歳までを大阪で過ごした。
輪島高校から次への進路を決めようとしたとき、金沢大学への唯一の推薦枠もとれるほどだったが、“普通の道”から外れたいことを先生や家族に伝え、説得、自身の道に邁進(まいしん)した。
1年目は大阪の専門料理学校へ、その後はフランス料理店で修行を積んだ。
26歳から29歳までは、自身にとっては未知の世界でもある本場フランスへ。
出国前、200件以上ものFAXをあらゆるレストランへ送ったそうだ。その熱意と地道な努力もスゴイものである…
【2006年2月、フランス・ブルゴーニュ地方のレストラン「ラムロワーズ」のシェフ オーベルジュさんと池端隼也さん(写真:池端さん提供)】
フランスでは、ミシュラン3つ星でフランスを代表する料理店と言われる「ロブション(Robuchon)」や、1921年創業の老舗3つ星レストラン「メゾン・ラムロワーズ(Maison Lameloise)」など、主にブルゴーニュ地方のレストランで、シェフとして活躍した。ブルゴーニュ地方はワインで有名な地域でもある。
その後、30歳(2009年)のころ、ビザの関係上、一時的に帰国し、フランスへ戻ろうとしていたが、2年間、再び大阪の古巣 フランス料理店で勤務することになった。東京でも少し働いたそうだ。
輪島には15年ぶりとなる2012年にUターン。
家族とゆっくり過ごしたい想いもあり、経営の勉強をするため、輪島へ一時的に帰郷、その後、大阪でレストランをオープンするつもりだったそうだ。
しかし、その間、輪島で、フリーでケーターリングなども行っているうちに、輪島の人たちは池端さんの料理の腕前を高評価。周囲が輪島でのフランス料理店のオープンを猛プッシュ、応援し始めたそうだ。
能登の自然やその食材にも惚れ込んでいた池端さんは2013年、輪島でフランス料理店をオープンすることを本格的に考え始め・決心し、開店に向けて準備に入った。
2014年9月15日、輪島初のフランス料理店「ラトリエ・ドゥ・ノト」をオープン、起業の一歩を踏んだ。1週間後には3周年を迎えようとしている。
店の中庭造りは、今年(2017年)4月、東京都町田市から輪島に移住し、「ラトリエ・ドゥ・ノト」の一スタッフとして新卒入社した土門さんが担当している。
土門さんは「ラトリエ・ドゥ・ノト」で働く前は学生で、造園を勉強していた。
「ラトリエ・ドゥ・ノト」はまだまだ3年目の若いレストラン、こんなことを言うのもアレだが…世間が「田舎には仕事はない」「地方創生」などと“ネガティブ”な感じで騒いでいる中、新卒で田舎の会社に入社するとは… 勇気ある一歩だったかと思う。
土門さんは学生時代に、能登へ行き来し、能登に惚れ込み、卒業後、輪島に移住。現在、輪島の町中に住んでいるが、いずれ土門さんが惚れ込んでいる地域 輪島市三井に住みたいそうだ。
ぼくらのテーブルをメインで担当してくれたもう1人は、東京のホテル「リッツカールトン」など、上級ホテルを経て、能登町鵜川にUターンした方。彼は誠実そうで、フレンドリーな人だった。
池端さんによると、「ラトリエ・ドゥ・ノト」には、Uターンが3人、Iターン2人、昔から輪島に住む2人が、スタッフとして働いているそうだ。
「ラトリエ・ドゥ・ノト」は能登へのU・Iターンにも貢献していて、そこでは、スタッフみんなが楽しそうに仕事をする様子もうかがえる。
「ラトリエ・ドゥ・ノト」のシェフ池端さん、スタッフの方々はのりが良く、丁重にサーブしてくれつつも、お話ししやすく、なんとなくお友だち感覚、いわゆる温かい“田舎感覚”で接してくれる。
都会の「ホテルマン」的な感じではない。フレンドリー感溢れて、親しみやすいフランス料理店だ。
料理店に関する記事でこう書くのもアレだが…料理の味は、もはや言うまでもなく、“超”美味しい。
能登にある数々の食堂の料理は、様々でジャンルが異なるが、「ラトリエ・ドゥ・ノト」の料理は、ぼくの料理の表現力では語れないほどで…
とにかく「美味しい」の一言に尽きる。
一度行ったらまた行きたくなること間違いなしだ。
ぼくにとって、特に印象的だった料理は、今回初めて食べたメインディッシュの『鳩(はと)』。
フランス料理では、当たり前とされる食材のようだが、鳩はレアに焼かれていて、実に美味で、印象的だった。鳩はお薦めだ。
鳩は、その他 奥能登にある料理店では取り扱っていないのでは?
メインディッシュでは、他に小鴨や能登牛(もも肉)の選択肢もあったが、能登ではいつでも能登牛を、鴨も食べられそうなので、鳩を選択した。
量の関係上、一人が鳩を注文すると、もう一人も鳩を選択しなければいけないそうだ。ちなみに、小鳩と小鴨はフランスから取り寄せた肉。
一品目はまず、アテ(能登ヒバ)の木のプレートに添えられた前菜。
このアテの木の“ちょい”小型一枚板っぽいプレートがまた贅沢なコースの始まり方。
ぼくは、一枚板好きなので、このアテの木のプレートを大きくした大型のテーブルが欲しくなってしまう。
アテの木プレートにのっているのは、「バイ貝」「能登豚・テリーヌ」「グージェール」。
美味しい前菜の始まり。
上品な感じの「トウモロコシ・甘海老」
桃とトマトを使ったラズバチャと呼ばれるレジェのスープで、その上にサンマがのっている「ガスパチョ・サンマ」
さっぱりしていて食べやすい。
豆の味が強い「ブーダンブラン グリーンピース」。魚介のムースをソーセージ仕立てにしているそうだ。これも美味しい!
輪島水揚げ1位の河豚(フグ)を使った料理。
フグの上にのっているおかひじきや、そうめん南瓜が、サクッとした感じで美味しい。季節のナスやピーマンも使っている一品。下にある緑のソースは春菊がベース。
前菜の最後は「リードヴォー バターナッツ」
子牛の喉肉の上に、根菜のビーツと、キノコがのっている。ソースはバターナッツ。柔らかい食感。これも美味しい。
口直しのシャーベット「グラニテ」
「スズキ ブイヤベース仕立て」
大葉と青りんごも入っているそうだが、大葉の苦味は全くない。
鱸(スズキ)の焼き具合、香ばしさも最高。
皮がカリッと、身は柔らかい。これは鳩の次にお薦めの一品。
メインディッシュ「鳩」。このレア感…美味しい。
全て美味しかったけど、ぼくにとっては、この鳩が一番印象に残った。
スイカがシャーベットのようになったデザート。スイカをシャーベット風にしたり、ジュースにしたりと、シンプルそうだが、工夫がこなされいる。さっぱりしたトマトジュースの味もきいているような感じもした。
デザートはフォンダン ショコラ。マンゴと木苺がベースとなったソース。
ショコラの中に入っている緑の粒はピスタチオ。これも本当に美味しかった… デザート好きなので、もう1つぐらい食べたかったなぁ。
食後のお茶菓子。
飲み物はコーヒー、紅茶、ルイボスティーまたはエクスプレッソから選ぶことができる。
ちなみに、今夜はなかったが、穴水町鹿波地域に住む循環型酪農家の道坂一美さんの「たんぽぽファーム」の豚や子牛の肉も取り扱っている。
「ラトリエ・ドゥ・ノト(L’Atelier de NOTO)」の概要
営業時間:
● 火曜日 18:00~20:30(ラストオーダー)
● 水曜日~日曜日 11:30~13:00(ラストオーダー)、18:00~20:30(ラストオーダー)
● ランチ営業、日曜営業
定休日: 月曜日
電話番号: 0768-23-4488(午前10:00〜)
予約:
● 電話か予約フォームから予約可能(来店は10歳以上(貸し切りを除く))。予約フォームはこちら
住所: 石川県輪島市河井町4-142(地図はこちら)
駐車場: 近くに専用駐車場あり。8番から13番。(地図はこちら)
交通手段:
● 道の駅 輪島ふらっと訪夢(輪島駅)よりタクシーで4分(運賃約700円)・徒歩10分(ルートはこちら)
● 金沢駅より約2時間、特急バス 輪島特急線輪島マリンタウン行き(運賃2,260円)。時刻表はこちら。詳細ルートはこちら
● のと里山空港(能登空港)よりクルマで約40分。乗り合いの「ふるさとタクシー」(約900円)もあり。予約はこちら。空港から特急バスで行く場合、輪島特急線輪島マリンタウン行き(運賃約600円)。時刻表はこちら(午前便の飛行機だと14:00過ぎまでバスを待つことになる。午後便は16:20のバスがある)詳細ルートはこちら
● 和倉温泉駅より約1時間。詳細ルートはこちら
● 羽田空港より飛行機で約1時間30分。詳細ルートはこちら
● 大阪駅よりサンダーバードで約5時間30分。詳細ルートはこちら
コース:
【ランチ】(11:30~13:30 Last order)
● Aコース ¥3,300
● Bコース ¥5,250
● Cコース ¥8,400
【ディナー】(18:00~21:00 ラストオーダー)
● Aコース ¥5,250
● Bコース ¥8,400 (ぼくらが楽しませてもらったのはこのBコース)
● Cコース ¥12,600
・以上は税抜き価格。ディナーのみ、VISA・Master・American Expressのクレジットカード使用可能。
ドレスコード: なし
禁煙・喫煙: 完全禁煙
フランス料理の質や味、外観、内装など、文句なしの「ラトリエ・ドゥ・ノト」。
能登の田舎に住んでいる人ほど、行くべき料理屋と感じた。
いつも当たり前のように食べている「能登の里山里海」の幸が、どんな風に“激変”しているのか… 気にならないだろうか?
純粋に「能登の素材ってここまで美味しくなるの!」と、驚きを舌で味わうことができるだろうし、これまでとは異なる視点で、能登の食材を見つめなおすことになるだろう。
食材を獲ってくる・作っている漁師さんや農家さんは、さらに誇りを持つことができるかとも思う。
能登や田舎にあるその他の食堂で好きなスポットは沢山あるので、全く否定的に書いているわけではないが、極端に言ってしまうと、能登の食堂にある料理は、自宅や近所のおばぁちゃんの家などで、味わえるものが多い気がする。
だが、「ラトリエ・ドゥ・ノト」は全く違う。ここの料理は作れない… ここでしか味わえない。
「フランス料理だから、そりゃぁ、ジャンルが違うから当たり前じゃん」と思っている人、そりゃそうなんけど、そう思ってしまってはつまらないし、もったいない。
こんなに美味しいスポットが、地元 能登にあるんだから、もっと“奥”深く、「能登の里山里海」の“食”を追求してみてはいかがだろうか?
ここは、一工夫どころか、奥能登では全く食べられそうにない、数段階、“どこかへと飛んでしまいそうな味”がある。全くジャンルが異なるレストランだ。
「うちらの近所で採れた食材がこんなにまで変わってしまうの!?」を、絶対に味わえるスポットである。
価格は、リーズナブルではないのかもしれないが… 財布に余裕がなくても…またぜひ行きたいと思うことだろう。
能登に住んでいるなら…「行かなきゃ、損した気分になるよ!」と、心から叫びたい。
さて次は…輪島前神社大祭のキリコ祭りへと向かった。(続きはこちら)
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