能登・輪島市(石川県) – 輪島塗で有名な輪島。前にも話したが、輪島は全体的に元気がないとぼくらは感じていたが、当たっていたのかもしれない。(前回のストーリーはこちら)
輪島塗も元気がないと感じたモノの一つだ。
昔からの伝統として知られるだけで、ぼくら若い世代にとっては、そこまでの存在イメージはないと言い切っても過言ではない。
スザーンさんはこう話した。
輪島塗は進化しなければいけない。
景気が良かったバブル時代、どんなデザインの輪島塗でも売れた。
この世代の輪島塗職人は、同じものを“とりあえず”作り、それを“とりあえず”売るだけで終わり、“新しい輪島塗”を開発していない。
何でも売れる“バブル”から…売れない現代へ。進化しない輪島塗
輪島塗が売れていた時代から、デザインはずっと変わらない。
職人も新たなデザインを開発しないまま、淡々と売り続けてきた。「漆で作れるものはこんなもんですよ」と、作品づくりが常に終わってしまうのかもしれない。
好景気の最中では他業界でもよくある話かもしれない。
人は安定し始めると、「そのままでいいか…」「まぁ大体こんなもんでしょう…」という考え方に落ち着いてきてしまい、淡々とした作業が日々続き、変化を求めず新しいものが出来上がらない。
それに拍車をかける様に、現在は不景気で、進化がないデザインのものは、売れない。
若い職人が育たないシステム
輪島市からの助成金も一部の職人(組織)のもとにしか届かない。
バブル世代の輪島塗職人のデザインには進化がないが、なんらかのコネがある。
それに比べ若い人たちには、経験と仕事がない上、道具も揃えて、作品を発表する場もない。
例えば、4グラムの金で3万4千円する。刷毛などの輪島塗の道具は万単位する。
輪島塗職人になる為の道具をそろえるのにローンを組まなければならない。
結果、ここ20年間、次世代の輪島塗のアーティストを目指してきた職人たちは輪島を去るばかり。
前世代の塗師屋が、全国へ営業に行き、時代のニーズに合い、他の産地に負けない品物を作ってきた。
この人たちが輪島塗の好景気/“バブル”を作った世代だ。
輪島塗が盛り上がり、勢いにのることができた次の世代は、バブル世代の影響で、楽に儲けてしまい、勉強不足となってしまった。今の世代の輪島塗職人は、革新的なモノが創れていない。
デザインの進化は、一世代前でストップしたまま。
昔、輪島塗は楽に売れたが、当時の考え方で「古いデザインの輪島塗」を売っても今は通用しない。
もちろん、情熱を持って輪島塗を創っている職人も沢山いると思うが、中には「しょうがないから職人を継いだ」と思っている後継者たちも輪島内に多いと聞く。
輪島塗を本格的に始めたいのだが…
後継者で輪島塗の良さを分かっている人も少なくなっている。
輪島塗に関する質問を聞いても答えられないことも多々あるそうだ。
「輪島塗に対して“熱”がなくてはさらに売れなくなる」。そして、輪島塗を本当に勉強したい人たちが輪島に学びに来るが、職人を目指して勉強している最中に、お金がなくなり辞めてしまう。
現状、若い人は、発表するチャンスが少なすぎる。国/市は個人に助成金を出すことはできないため、組織である塗師屋に助成金を渡す。
しかし、若手には昔からのコネがなく、仕事が下りてこないのだ。
個展をするためには、約50点の作品が必要で、制作時間がかかり、材料や道具などの費用もかかる。作品づくりだけでは食べていけない。
結果、稼ぎがなくなり、県外の実家に帰ってしまう。しかし、輪島には、材料屋、漆屋、木地屋があり、先生などの相談相手もいる。
遠い実家に帰ると、引き続き漆塗をすることもできない。
長期間、研修所に通っても、結局辞めるしかないのだ。材料や道具でお金がかかってしまうと、資金を稼ぐ為にその他の仕事を始め、輪島塗は趣味になってしまう。
輪島塗は工程ごとで大変な作業である。手間と時間とお金がかかり、他の仕事を始めてしまうと、輪島塗に集中できず、“良いモノ”を作ることは難しい。
趣味でできることではない。「若い人が諦めずにもっと頑張らなければダメだ」と思う人もいるかもしれないが、こんな現状も存在するそうだ。
地方では、農業、漁業、役人以外に新たな職を創らなければ、職が限られているのが現状。
頭がよくなければ、先生や役場では働けない。そんなことを地方でよく耳にする。
描けば売れた時代はとっくに終わっているのだが…
漁師になりたかったが、岩場で転び足を悪くして、蒔絵師になるしかなかった人もいるそうだ。描けば売れた時代だった。
仕事として、単純にこなしているだけ、“輪島塗を愛する熱”がなければ、輪島塗を伝えられない。
また、新しいものが開発できないため、他人の作品を真似して、似たモノを開発する人も多いそうだ。
蒔絵師が、塗師屋に依頼されたデザインを提出する。
しかし、塗師屋は提出されたデザインを、より安価で描ける蒔絵師に持っていき、デザインを別の人に再依頼するのだ。
最近では、このようなデザインの盗難も多々ある。しかも1,500円で蒔絵が依頼されることもあるとか。
不景気なので、このような蒔絵の仕事も引き受けることも、多くなってきていると話す。
そんな背景もあり、輪島には蒔絵の発注はしにくい現状だそうだ。
商品としてお店に並ぶ前に、自分で作ったデザインが広まってしまうためだ。
輪島で展示することでさえ、控えたくなる。自分のデザインが盗まれる恐れもある。
仕事がないから、弟子も育たなくなっている。そもそも、今、輪島では、弟子をとらなくなってきた。師匠の仕事がないため、自身の生活で手いっぱいとなり、弟子を育てる余裕がないそうだ。
職人も稼いで食べなければいけない。生活をしなければいけない。これで輪島塗は残るのか…
スザーンさんはどのようにして頑張ってきたのか…
一方、スザーンさんは、英会話教室も開いてお金を稼ぎ、研修所の道具を使いながらも、少しずつ道具をそろえていった。
【石川 輪島市 Suzanne Ross(スザーン・ロス)さんアトリエにて】
そして、独自で個展を開くなど努力した。
20年以上、輪島の森の中に住み漆塗を勉強しているイギリス人のスザーンさんは、自身の経験を活かした漆デザインが評価されはじめた。
メディアにも取り上げられるようになり、去年からようやく軌道に乗り始めた。
20年頑張って、ようやくだ。
【石川県 輪島市 – さて、これから、この器にどのような模様が描かれていくのだろうか(Suzanne Ross(スザーン・ロス)さん宅にて)】
今の輪島塗のデザインは、従来のモノと変わりがなく、進化がないとスザーンさんは感じている。
作品をつくるだけではなく、輪島塗の再活性化を目指す
人間国宝の師匠から学んだスザーンさんは鋭く、客観的な視点で厳しく最近の輪島塗を評価する。
【石川県 輪島市 輪島塗の未来について熱く語るSuzanne Ross(スザーン・ロス)】
輪島塗の全工程をマスターした背景はシンプルで、スザーンさんは当時、祖国イギリスに戻ろうとしていた。
イギリスに帰国し、漆塗を続けるつもりだったので、全行程を勉強した。
技をマスターするだけではない。自身の技法も入れて、付加価値をつけていった。
その上、自身で営業をかけ、会計、展示方法、道具の装備など、全て自分で行ってきた。
スザーンさんも塗師屋/“プロデューサー”的立場で、工程ごとの職人に仕事を発注するようになっている。
スザーンさんは、人間国宝の下で学んだ厳しい目で自身が発注した工程の仕上がりをみる。
全工程をマスターしているスザーンさんだが、職人に工程を発注することで、若手育成、輪島塗の再活性化も図ることも目指しているのだ。
スザーンさんの作品のように、近代では斬新な輪島塗が評価されつつある。(続きはこちら)
<前回のストーリー 『day 70.3 予想外の日本滞在約20年 「ペンキ塗りは得意。輪島塗を3ヶ月でマスターできると思った」と漆芸作家スザーン・ロスさん』>
<次回のストーリー 『day 70.5 輪島塗と独自の技法でデザイン “Power of Wood(木の力)”を感じられる作品をつくるスザーン・ロスさん』>
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少し偏った印象を受けます。<br /><br />劣勢で有る事が正しいのでもなく、厳しい環境は世界中どこでも同じですし、何かを為す時そこにやる気が有るから為せるとは限らないし、やる気が無くても何かを為せる者もいます。<br />見かけだけのやる気を見て、或いは大きな力を否定しているだけでは自身が小さくなってしまう。<br />私は三井町に住んでいるが、そう思う。
コメントありがとうございます。<br />私自身、特になにかを否定しているわけではありません。<br /><br />旅先で、その時々の出来事、お話し、実際自分で体感したことをベースに書いております。<br />もちろんのこと、一場所を全て網羅している“旅”ではないので、多くのことを実際、見られてないケースもございます。<br />「ここを見たほうがいい!」などあれば、次回、そちらへ行きたいと思います。<br /><br />いただいたコメントの件、<br />私の意見も一意見のとおり、おっしゃるとおり、<br />「匿名」さんのような考え方もあるかと思います。<br /><br />「劣勢で有る事が正しいのでもなく、厳しい環境は世界中どこでも同じですし、<br />何かを為す時そこにやる気が有るから為せるとは限らないし、やる気が無くても何かを為せる者もいます」<br />このコメント